過去の講演要旨
ゴルフが上手くなりたいですか? ゴルファーになりたいですか?
2018年4月24日朝塾 倉本昌弘氏講演
認知症予防にゴルフ?
日本プロゴルフ協会は昨年創立60年、女子プロゴルフ協会は昨年50周年を迎えた。日本のプロゴルファーは現在5599人いる。全都道府県に最低5人はいる。ゴルフ場、ゴルファーがいる地域に多い。
日本の人口の年齢構成と同じように私たちの会員も高齢化してきている。50歳以上が6割で、最高齢者は102歳で現役だ。60周年の時に表彰した94歳の人は普通にゴルフをしている。健康の秘訣は、広いゴルフ場で大きな声でしゃべり日光を浴びることだという。ボールを追いかけながら3㌔、4㌔を2時間半かけて歩く。1日1万4000~1万8000歩を芝の上で歩くと体にいい。膝、足にもいい。
3月にウィズ・エイジングゴルフ協議会とタイアップして「健康とゴルフ」というテーマで半年間認知症についての治験をやった。東大病院やいくつかの病院の人たちも参加して65歳以上の人で、ゴルフをやってもらう50人のチームとゴルフをやらない50人のチームとに分かれて調べた。その結果、ゴルフをやったチームは単語を認知する能力が15%アップし、文章の認知能力は20%以上向上した。ゴルフをやることによって認知症予防に対してある程度効果があることが立証された。これは夏までに学会で発表される。
ゴルフで何がいいのか。成人病対策で歩くことはもちろんだが、残りの距離はいくつだとか計算するなど頭を使う。今の医療費は30兆円とも40兆円で、2050年には60兆円を超えるだろうと言われている。ゴルフをやれば医療費が下がる、という観点で私たちは第一生命と包括連結協定を結んだ。第一生命は4万人のライフプランナーがおり、1100万人の顧客とフェイス・トゥ・フェイスでつながっている。私たちがイベントをやるときには1100万人の顧客に告知をしてもらえる。第一生命は保険の日払いが1日50億円あり、ゴルフを通じて顧客が健康になって1日1億円でも下がれば日払いは年間365億円少なくて済む。お互いメリットがあるので協定を結ぶことができた。これはスポンサー契約ではなく、お互いがフィフティフィフティで異業種と契約出来たのが大きい。
ゴルフの本質
他のスポーツにあってゴルフにないものは審判だ。審判がいないということはすべて自分が責任をもってジャッジしなければならない。そのためにはルールを知る必要がある。法律とか社会のルールは知っていて当たり前で、「知りませんでした」というのはある意味犯罪で無知では済まない。ゴルフも同じで、ルールを侵すと「ペナルティを科しますからそれを自分で払ってください」となる。
ただ、ゴルフは自主申告して謝った選手に対して許す心がある。これが最も大切なのだ。
今の社会に置き換えてみよう。間違いをして謝ったら袋叩きにあってしまう。そうするとみんな隠すようになる。こんな社会って本当にいいのか。ゴルフをやる人間がすべて正しいのではないが、ゴルフをやることによって正しい精神を身に付けることができることがある。
もう一つゴルフの精神の中で大事なことがある。ゴルフは30万坪から40万坪の広大な土地を1日200人くらいの人で占有するのだが、気を付けなければならないのが、自分がプレーした痕跡を残さないこと。芝を取ったり、砂を掘った痕を「次の人がここに来たらうまく打てるようにきれいにしておこう」と思ってならす。あとの人がそこに行った時にきれいにならされているのを見て「有難いな。こんなに自分のことを思ってくれて配慮してくれたのだ」という人を思いやる精神が尊い。
これは、子どもたちの教育に非常にいい。なので、子どもたちのゴルフを始めてもらおうというのが協会の大きなテーマでもある。競技志向の子どもたちだけでなくゴルフを通じて仲間を作ってもらう、いろんなことを感じてもらう、ということを含めて小さい年代から高校生、大学生までゴルフをやって欲しいと思っている。
就職・営業ツール
今、会長になって5年、3期目だが、2期目の時に始めたのが大学との提携で、大学にゴルフの授業をやってもらう。4年制の大学約800校のうち今、500校を超える大学がゴルフの授業に取り組み、4万~5万人の学生がゴルフをやっている。残念ながらゴルフをやっている先生が少ない。だから私たちが教え方の手引きを作って出向いて先生方にゴルフの授業をやっている。
大学生にゴルフの授業を選択した理由のアンケートをやったところ、大半の学生が「体育の授業でサッカーやバスケット、バレーボールなどを選択すると、高校・中学の時にやっていた学生と差が出てしまい面白くない。ゴルフはほとんどがやったことのない人たちばかりなので同じくらいのレベルで出来る」と答えたそうだ。4年間ゴルフを取った卒業生に「ゴルフを取ってよかったことは何か」と聞いた。「就職活動に役立ちました」というのが最近出てきた。
ゴルフは社会に役立つ、営業ツールだ、と私たちは言っている。ある地方銀行で話をした時に、営業の人が中小企業に預金のお願いに行ったところゴルフをやっているとかなり会話ができたという。ゴルフは昔のようなヨイショヨイショのご接待はなく、今はゴルフを通じて一緒に楽しもうという話になっている。間違いなく5~6時間は一緒にいるわけで、何らかの会話があってそこから進み、商談が成立することもある。
ウマが合わないコーチは切る
今、私たちはゴルフデビュープログラムというのを日本全国で10カ所、6回のカリキュラムをやっている。最後はゴルフ場でプレーをする。ゴルフ場に行って楽しければ新たに既存のスクールに行ってしっかりと基礎を身に付けてもらうのがいい。将来は拠点を30カ所くらいに増やして新しいゴルファーを作っていこうと思う。
ゴルフのレッスンは大体20分単位になる。スクールは5~6人単位が多く、6人で1時間のレッスンを受けるとすると先生に診てもらえるのは1人平均10分になる。そして、1番手がかかる人に1番時間がかかる。1番うまい人は全くコストパフォーマンスが合わない。だから始めるにあたってはグループレッスンがよく、うまくなったらマンツーマンでレッスンを受けというふうに変えるのがいいのではないか。
教える側がいいパフォーマンスをしなかったら遠慮なく切ればいい。私たちもプロだから切られないように勉強をする。そこをお互いにシビアにやっていけばいい。1日でもウマが合わないと思った先生とはやめるべきだ。言っていることが納得できる先生を選ぶべきだ。
コーチングとティーチング
私たちがやっているのはティーチングだ。たくさんのノウハウを持っていてそれを一方的に教えるのがティーチングで、教えられる側は技術的にレベルの低い人、知識のない人になる。それに対して選手と教える側がディスカッションしながら何を目指してやっていくかというのがコーチングだ。選手はいろんな目標をもってやっているがそれが正しかどうかは分からない場合もある。コーチはトレーニングや磨くべき技術などについてディスカッションしながら目標に向かって進めていく。
これを間違えるといろんなスポーツ業界で今起きているハラスメントなどが出てくる。コーチはティーチングから始まり、ある時を境にコーチングに変わらなければならないのに、ずーっとティーチングで行ってしまうと今回みたいなことが起きる。というのは選手の方がはるかに上のレベルに行っているのにもかかわらず、「ああだ、こうだ」と言い始めると選手が不信感を持ち始める。選手が不信感を持ったことに対してコーチ側が気付かずにずーっと同じことを続けているとそれがパワハラに変わる。
パワハラの一番の問題は、上の人、パワハラをかけている人が、かけられている人が自分よりも技術的、実力的に上に行っているということに気付かないことだ。気づけば、技術などではなく、自分の方が勝っている経験や精神論について教えればいい。それからお互いのディスカッションで先進的な技術ではなく基本に戻ってやっていこうということは言える。上司と部下の関係、プロジェクトチームの中での関係も同じなのではないか。自分の思っていることが部下のことを思っていると言いながら本当に部下のためになっているか、と思い返すのが必要ではないか。
マナーとエチケット
日本のゴルファーは最盛期には1200万人いたのが、今は750万人ぐらいで、ゴルフ場も減ってきている。そういう中で手軽にできるゴルフに変えなければいけないだろう、ということで19年から世界統一でもっとわかりやすいルールに変わる。
それでもわかりにくい。中々うまくならない。マナーやエチケットはうるさいと言われる。両方同じなのだが、エチケットは個人に対しての礼儀、配慮で、社会に対する配慮や礼儀はマナーだ。ゴルフでは襟のある服を着てやるのがマナーといわれるが、襟の無い服というのは下着で、下着を着て人前に出ることはしない。だから襟のある服を着る。それからズボンの中にシャツを入れるというのも人前でシャツを出してビジネスをすることはないのと同じこと。全く見知らぬ人たちと共有する時間には最低限のマナーを守る。一緒に回る人に対してエチケットを守る。だからそんなに難しいことではないのでぜひゴルフを始めて欲しい。
東京五輪コーチに藍ちゃん?
リオ五輪から108年ぶりにゴルフが復活した。私は強化委員長としてリオに行ってきた。面白かったのは会場でその種目を体感できる場所があったこと。私は柔道も観たが、試合はあっという間に終わった感じがした。その後ゴルフ場に行ったのだが、なんとつまらない競技だと思った。4~5時間だらだら歩いて、打つ時間はほんの数秒。これはゴルフをやらない人にとっては苦痛だと改めて感じた。
で、日本に帰ってきて「ゴルフはもっと短くやりましょう」と言った。みんなプレーを早くすれば3時間くらいで1ラウンド回れる。東京五輪に向けて「9ホールのプレーに変えませんか」という提案をした。9ホールだと約2時間で終わり、テレビで見ていられるだろうと思ったのだが、これは却下された。それから「国別対抗にしよう」とも言ったがこれも却下された。個人戦で18ホールを延々4日間という昔からの伝統にのっとってやる。
東京五輪は8月11日から霞が関カントリーでやるのだが、男子の後女子で、日本は開催国特権で1枠増えて3枠出られる。今のランキングから言うと松山英樹、小平智、池田勇太で、メダルを取る可能性はある。私が強化委員長で、コーチが丸山茂樹で女子は宮里藍ちゃんをお願いしている。彼女がやってくれれば影響力があるし、いろんな情報が発信できるということと、みんなが夢をもってオリンピックに向かってくれると思うのですごくいいい。
東京五輪の後、パリ、ロサンゼルスで開催の予定で、ゴルフもほぼほぼやることは決まっている。強化委員長としては今の高校生、中学生にパリ、ロサンゼルスに向かってオリンピックの候補選手になってほしい、ということ。ただ、今のシステムでは世界ランキングで代表選手が決まってしまうので、私がいいと思っても選ぶことができず、強化委員長と言っても何もできない。だから、我々ができるのは、これから上がっていくだろうなという人のランキングを上げて可能性を出してあげることしかない。東京五輪は頑張るのでぜひ見に来て欲しい。ただ、暑いのでテレビの方がいいかな、とも思う。ゴルフの面白さを知って、周りの人にも伝えてもらえれば、と思う。
質疑応答
ー ゴルフをやって結果が出ない時の気持ちの切り替えや、長くゴルフをやるためにいいことは?
倉本氏 ゴルフというのは他のスポーツと違って歳を取ってもできる。年齢、性別、プロ・アマ関係なく楽しめる。ゴルフ場はすべて顔が違う。だからゴルフ場と対話し、一緒にプレーする4人との共通の時間をすることを楽しんでもらいたい。これをできる人がゴルファーなのだ。配慮ができ、人を思いやり、人を楽しませる=自分も楽しむことができる人だ。
ー 世界でプレーしていて、大事な瞬間に自分自身を信じるときとか心の持ち方は?
倉本氏 日本人はもともとの思考はネガティブだが、その中にポジティブな考えを持っている。今は若干変わりつつあるが、日本人は大きな大会になれば慎重になって力を発揮できない。欧米人ははノー天気なポジティブだ。自分のものだと思ったらものすごい力を発揮する。ポジティブであればいいとなるとケアレスミスが出る。ネガティブがいいとなると何も前に進まない。だからネガティブとポジティブをうまく切り替えのできる人が勝負ごとに強いと思う。万全の準備をしてきたことをしっかりと伝える意識があって、集中することが出来ればすごくいいパフォーマンスができる。
ー 休みに対する考え方は?
倉本氏 トレーニングでもそうだが、休むことによって向上するという意識を持ってほしい。筋肉は傷めて回復するから大きくなる。ずーっと痛めっぱなしで回復する時間がないと疲労だけが残る。多分仕事でもそうだと思う。休むことも仕事だと思って、休むときにはしっかり休む。すべてをまっさらにする。それが負のイメージを持たない休み方だ。
2018/05/07
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